デッドストック。
流通や小売り関係者にとっては忌まわしい言葉ですが、まさかIngressでその言葉を聞くことになるとは思いもしませんでした。

「うちにポータルキーの不良在庫が大量にあってインベントリを圧迫しています。手を貸してください」

いつもは厄介事を持ち込まれる立場であるR16の頭脳くじらさんから、逆にそんな頼みごとがメンバーに持ち込まれたのでした。

件の鍵はデカいネコ彫像のポータル。その数は貯めも貯めたり100個近く。
こんなどことも知れないワケの分からない鍵を1年もの間ため込んでいたというのですから、物持ちがいいどころの話ではありません。もちろん頼まれたら借金の保証人以外はイヤとは言えないR16メンバーです。快く承知して在庫一掃に協力する運びとなりました。

しかしこの鍵をあんまり近場でリンクするのは、ちょっともったいない話です。
Ingressはポータルとポータルの縁を繋げるゲーム。どうせならこのネコ彫像とは普段まったくゆかりも由衣も無いような場所と、その縁を繋げてやりたいではありませんか。

タイミングよくナイトハイクの訓練に赴くメンバーもいたので鍵の一部を託し、くじらさんが練り上げたプランを元に、毎度おなじみR16、八王子HO、多摩新選組混成軍による突発的作戦、名付けて”オペレーションデッドストック・年を越す前に在庫を一掃するぞ!”のスタートです。

まったく縁のなかったポータル同士を繋げるがコンセプトですから、その様相は普段のNOVAとはちょっとばかり違うものとなりました。訪れる機会があまりない裏寂れたポータルを、それぞれ一、二箇所分担して回るピンポイント作戦です。

私がくじらさんに悪戯っぽい笑みと共に任せられたポータルも、道だかなんだか分からないようなとこを登っていくとんでもない場所でしたが、今回はみんなが揃ってこのようなとこを目指しているのですから、くじらさんを恨むわけにはいきません。

20分近くをかけてたどり着いた場所は、山の中腹のわずかに平らとなった灯り一つ無い空間のド真ん中に、朽ち果てたイスが3脚並べてポツンと置かれてるホラーな場所でした。一体ここで何が行われてたんでしょうか? こんな何もない場所に3人並んで仲良く腰をおろして虚空を見つめて何をしようというのでしょうか?

こんなときは落ち葉が地面に当たる音でさえも、異様に大きく不気味に響きます。
とっととリンク通してこんなとこさっさとオサラバしよう。しかしスキャナーに踊るのは「リンクできるポータルないっすよ」の無情なメッセージでした。

近くの市街地に展開しているボスが邪魔リンクの処理に向かっている間、私はこの不気味な空間の真っ暗闇で、くじらさんの悪戯っぽい笑みを思い出しながら、ただ耐え忍ぶばかりなのでした。ええ、決して恨むわけにはいきませんとも。あのヤロウ!

展開している場所が場所ですから、みんながHOに上げてくる現状報告画像は、どれもきれいな夜景ばかりです。
分担が的確だったのか、作戦開始からほぼ2時間後には20数キロにも及ぶハーフNOVAがほぼ完成。
あとは所用により遅れての参加となったブラッキー先生が滝山城方面からいくつかリンクを飛ばしてフィニッシュです。

遅れを取り戻そうと走り回ったのか次第に息が乱れていく先生のZello通信を、

「若い者には苦労させなきゃいけないよな」

と、まるで限界集落老人のような合いの手を入れつつ、予定リンクを消化して無事作戦終了。
折しも山梨の方では現地RESの皆さんがやはり作戦遂行中で、県境を挟んでNOVAと巨大多重が仲良く並ぶ光景が完成しました。

懸案の不良在庫キーもあらかた消費し、作戦の本来の目的もほぼ達成です。

「キーを溜め込まない」「使うときはさっさと使っちゃう」「赤カプに入れて忘れちゃダメ」。

そんな教訓を得て肩の荷をおろした我々でしたが、それも束の間、今度はDJ班長から、

「実はこんなところの鍵が大量にカプセルに眠ってまして」

と、新たな在庫一掃の提案が持ち込まれるのでした。それはもう暖かくなってからだ!(たぶん)